【町田市の税理士が解説!】福利厚生費の認定基準とは?~経費計上で失敗しないポイント~
経営者にとって、「福利厚生費をどこまで経費にできるか」は非常に重要なテーマです。福利厚生費とは、役員や従業員の労働環境を整備し、生活を充実させるために会社が支出する費用のことを指します。税務上は「給与」ではなく「経費」として処理できるため、課税所得を圧縮する効果があり、節税の方法として挙げられることもあります。
ただし、支出のすべてが自動的に福利厚生費と認められるわけではありません。税務上の「一定の要件」を満たさなければ、給与等の扱いになり、源泉徴収の対象となることがあるため、注意が必要です。
福利厚生費が認められるための基本条件
福利厚生というと一般的には、以下のようなものが挙げられると思います。
・健康診断費用
・慶弔見舞金(結婚祝金、出産祝金、弔慰金など)
・社員旅行やレクリエーション費用
・社員食堂や昼食補助
・借り上げ社宅
・スポーツクラブ利用補助
・福利厚生施設(保養所、リラクゼーション施設など)の利用料
税務上もこれらの費用は、福利厚生費として認められます。ただ、福利厚生費と認められるためには主に次の要件を満たす必要があります。
⑴全従業員を対象としていること
福利厚生は「一部の人だけのため」であってはなりません。例えば、役員だけが利用できる高級保養所や、特定の社員だけが対象の補助金制度は、福利厚生費ではなく「役員給与」または「給与」とみなされます。
⑵社会通念上、相当と認められる金額・内容であること
会社の規模や業種に照らして「行き過ぎた支出」と判断されると、福利厚生費としては認められません。たとえば、社員旅行を毎月海外で実施するようなケースは「過大」とされ、経費算入が否認される可能性があります。
⑶私的利用が含まれないこと
従業員個人の生活費や嗜好品の購入代金を会社が負担した場合、それは福利厚生ではなく「給与」となります。特に、個人の趣味に直結するもの(ブランド品購入補助、個人旅行費用負担など)は認められません。
よくある福利厚生費の具体例と認定基準
⑴健康診断・人間ドック
法定健康診断の費用は当然ながら全額福利厚生費として認められます。任意の人間ドックについても、全社員が対象であれば経費として認められることが多いです。ただし、役員や一部社員だけが対象の場合は「給与」と判断される可能性があります。
(国税庁HP:「人間ドックの費用負担」)
⑵社員旅行
社員旅行は福利厚生費の代表例です。ただし、認定されるためには以下の要件を満たす必要があります。
➀参加人数が全社員の50%以上
②旅行の期間が4泊5日以内 (海外の場合には、移動中の機内での宿泊は含まれないため、実際に現地で過ごす日数が4泊5日以内であれば認められるでしょう。)
③家族同伴分の費用は会社負担にしない
これらを満たさない場合や不参加者にその旅費分の金銭を受け取ることが選択できるような場合は、給与課税される恐れがあります。
(国税庁HP:「従業員レクリエーション旅行や研修旅行」)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2603.htm
⑶慶弔見舞金
結婚祝金、出産祝金、弔慰金、災害見舞金などは社会通念上相当な範囲であれば福利厚生費と認められます。ただし、金額が極端に大きい場合や、役員のみが対象の場合は給与課税の可能性があります。
⑷社宅
従業員に社宅を貸与する場合、適正な家賃負担を求めていれば福利厚生費として認められます。しかし、実質的に「家賃を全額負担している」ようなケースは給与と判断されるため注意が必要です。
⑸まかない・昼食補助
飲食店では、自社の食事を「まかない」で提供するケースがあると思います。この「まかない」を福利厚生費として計上するためには、以下の要件を満たす必要があります。
➀支給される「食事の価額」の、半分以上を従業員が負担
②会社側の負担額が、1月あたり 3,500円(税抜)以下
まかないを無料で提供するケースもあると思いますが、代金を徴収しない場合、「現物給与」として課税される場合があるので注意が必要です。
(国税庁HP:「食事を支給したとき」)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm
福利厚生費が認められないケースとリスク
福利厚生費として処理したつもりでも、税務調査で「給与」と認定されると、追徴課税・源泉所得税の徴収漏れなどのリスクが生じます。よくある否認例を紹介します。
・役員のためだけに用意されたゴルフ会員権
・一部の管理職だけが利用できる高級クラブの会費
・社員旅行と称して一部役員だけが参加した旅行
・全社員を対象としていない高額な食事会費用
・従業員がいないオーナー兼一人社長に対する福利厚生費
これらはいずれも「特定の者への経済的利益」とみなされ、福利厚生費ではなく給与扱いとなります。さらに、過去数年分にさかのぼって課税される場合もあるため、要件を意識した制度設計が欠かせません。
中小企業が福利厚生費を活用するためのポイント
最後に、中小企業が福利厚生費を有効に活用するためのポイントをまとめるので、参考にしてみて下さい。
⑴全従業員を対象とすることを徹底する
特定の役員・社員のみを対象としない仕組みを整える。
⑵金額・内容が社会通念上妥当であるかを意識する
大企業と同じ制度を導入しても、中小企業では過大と判断される場合があります。
⑶規程や社内ルールを整備する
福利厚生規程を作成し、支出の根拠を明確にしておくと税務調査でも安心です。
⑷証拠書類を残す
領収書、参加者リスト、社内通知文書などを保存し、税務署に説明できる体制を整える。
⑸税理士に事前相談する
判断に迷う場合は、税理士に確認しておくと良いでしょう。
まとめ
福利厚生費は、従業員のモチベーション向上と節税を両立できる重要な制度です。しかし、認定基準を満たさない場合には給与課税となり、追徴課税等のリスクが発生します。
経営者の「社員を大切にしたい」という思いを税務面で無駄にしないためにも、制度設計の段階から顧問税理士と相談し、正しく福利厚生費を活用することが成功のカギとなります。