【町田市の税理士が解説!】賃上げ促進税制が大幅改正されたのを知っていますか?~中小企業が今知っておくべきポイント

昨年(令和6年)度の税制改正で、「賃上げ促進税制」が大幅に見直されました。

これは、企業が従業員の給与を引き上げた場合に、法人税の控除が受けられる制度であり、企業にとって非常に魅力的な税制優遇策です。

 2024年4月1日から開始する事業年度から今回の改正が適用されるため、2025年5月申告(3月決算法人)から恩恵を受ける企業が出てくるのではないでしょうか。

本記事では、今回の改正で何がどう変わったのか、中小企業がとくに注意すべきポイントを解説します。

賃上げ促進税制とは?

「賃上げ促進税制」とは、企業が従業員の給与を前年度より増額した場合、その増加額に応じて法人税や所得税の一部が控除される制度です。

 これまでも賃上げ促進税制の制度は存在していましたが、物価上昇を超える持続的な賃上げを目指す観点から3年間の延長・拡充がされました。

改正ポイント

では改正前と具体的にどこが変わったのでしょうか。以下に改正後の「賃上げ促進税制」のポイントを解説していきます。

控除率の引き上げ

今回の改正で、中小企業における最大控除率が給与等支給額の増加額の40%から45%へ引き上げられました。

また、控除率の基準となる賃上げ率(前年度比)に応じて、段階的に優遇措置が設けられています。

ただすべての要件を満たすには、教育訓練費の増加や一定の認定制度(後述)を満たすことが必要になります。また、法人税額又は所得税額の20%が控除上限となるので、注意が必要です。

図1 令和6年度改正「賃上げ促進税制」の概要

(出典:経済産業省「中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック」)

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai/chinnagesokushin06gudebook.pdf

赤字企業でも適用可能に(繰越控除制度)

これまでは、赤字企業などが要件を満たす賃上げを行っても実質的な恩恵はありませんでしたが、令和6年度の改正で、未控除分の繰越が最大5年間まで可能となりました。

つまり、上記⑴の控除額が控除上限となる法人税額又は所得税額の20%を超える場合には、その超えた分を翌年以降の黒字が発生したときに繰り越すことができます。これにより、「今年は赤字だが、来期黒字見込み」という企業も、制度活用の可能性が広がります。

教育訓練費の要件が緩和

教育訓練費の増加を行った企業には、賃上げに対する控除率がさらに加算されます。これまでは対象条件が厳しかったのですが、改正により、使いやすい制度へと見直されました。人材育成に力を入れている企業にとっては、まさに“追い風”といえる内容です。

ただ、教育訓練費の全てが当てはまるわけではなく、「会社自らが教育訓練を行う場合」、「外部に委託し教育訓練を実施させる場合」や「誰を対象に行ったものなのか」等の要件があるので、実際の計算の際には、税理士等の専門家に相談するのをおすすめします。

「くるみん」「えるぼし」認定で追加控除

図1の要件②に記載されているような政府認定を受けた企業は、控除率がさらに5%上乗せされます。

 「くるみん」や「えるぼし」とは、助成活躍推進企業や子育てサポート企業の認定であり、それぞれ下記の通りです。

・「くるみん認定」:子育てサポート企業

・「えるぼし認定」:女性活躍推進企業

これらの制度を活用している企業は、社会的評価だけでなく、税制面でも恩恵を受けられる形となりました。

(参考:厚生労働省「「えるぼし」 ・ 「くるみん」 認定取得を目指しましょう」)

https://jsite.mhlw.go.jp/fukuoka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/koyou_kintou/hourei_seido/_120977.html

制度適用のために必要なこと

「賃上げ促進税制」を活用するためには、以下の条件を満たし、必要書類を正しく整備しておくことが重要です。

・青色申告書の提出

・従業員給与の前年対比の増加

・明細書・計算書の作成・添付

・上乗せ措置の場合、関連資料の保存

また、適用を受けるには申告書を作成する必要があり、計算や資料の不備があると認められないので、注意が必要です。

まとめ

「賃上げ促進税制」は、節税と従業員満足度向上を同時に叶えられる制度だと思います。特に人材確保が難しい中小企業では、「賃上げ+教育投資+税優遇」は、強力な経営戦略となり得ます。

ただし、制度の計算は複雑で、年度ごとに改正も入るため、税理士など専門家のサポートを受けながら進めることをおすすめします。