【町田市の税理士が解説!】「欠損金の繰戻し還付」とは?
会社を経営していると、毎年必ず黒字になるとは限りません。
去年はしっかり利益が出て法人税を納めたけれど、今年は思った以上に業績が落ちて赤字になってしまった。というケースは少なくありません。
ただ実はこのような場合、前年に納めた法人税の一部を取り戻せる制度があることをご存じでしょうか。それが「欠損金の繰戻し還付」です。
制度の名前だけを見ると難しそうに感じますが、仕組み自体はシンプルです。
「今年の赤字を前年の黒字に戻して考え、払い過ぎた税金が還付される」というものです。
今回は、この欠損金の繰戻し還付とはどんな制度なのか、どんな会社が使えるのか、実務上どこに注意すべきかを解説していきます。
欠損金の「繰戻し還付」とは?
1. 欠損金とは?
「欠損金」とは、その事業年度において損失が出て、課税所得がマイナスになった金額を指します。法人税では、この欠損金は翌年以降に繰り越して将来の所得から控除する「繰越欠損金控除」制度というのがありますが、この欠損金を前年に戻して税額を減らし、納め過ぎた税金を取り戻すのが「繰戻し還付」です。
2. どんな場合に使えるのか?
国税庁のタックスアンサーによると「欠損金の繰戻し還付」とは、「青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合において、その欠損金額をその欠損事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰戻して法人税額の還付を請求することができる。」と書かれています。
(参照:国税庁HP「No.5763 欠損金の繰戻しによる還付」)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5763.htm
つまり、「今年赤字だが、前年は黒字で法人税を払っていた」という場合に、今年発生した欠損金を前年の所得に充当することで、前年に支払った法人税の還付を請求できるようにする制度です。
ただ、この制度で還付の対象となるのは国税(法人税及び地方法人税)だけなので、法人事業税や住民税は還付されません。したがって、法人事業税・住民税の計算上は、その繰戻し還付がなかったものとして、その事業年度において生じた欠損金を翌期以降に繰り越すための手続が必要となります。
「繰戻し還付」を受けるための要件
繰戻し還付を受けるためには、次の要件に注意が必要です。
1. 青色申告書の提出
欠損金の繰戻し還付制度を利用するには、欠損が生じた事業年度で青色申告書を提出していて、前年度から継続して青色申告をしていることが必須になります。
2. 欠損事業年度の確定申告と同時に還付請求書の提出すること
繰戻し還付は、確定申告と同時に還付請求書を提出しなければ適用されません。提出期限を過ぎると制度そのものの利用ができなくなり、法人税を取り戻すチャンスを失うことになるので注意してください。
還付金の計算方法
具体的な還付額は次の式で求めます。

具体的には、以下のように計算します。
【具体例➀】
・2024年3月期の所得が2,000万円(法人税400万円)
・2025年3月期の欠損金が1,000万円の場合
還付金は、
400万円×1,000万円÷2,000万円=200万円になります。
【具体例②】
・2024年3月期の所得が2,000万円(法人税400万円)
・2025年3月期の欠損金が2,500万円の場合
還付金は、
400万円×2,500万÷2,000万円=500万円としたい所ですが、還付金の限度額は還付所得事業年度の法人税額までなので今回の場合、400万円が限度となります。
したがって、欠損金2,500万円のうち2,000万円を使用するようなイメージになります。この場合、余った欠損金500万円については、翌期以降10年間、所得金額から控除することが可能になります。
注意点
一見、お得そうに見える制度ですが、以下の注意点もあります。
1. 繰越欠損金控除との選択
欠損金は「繰越控除」でも利用可能です。繰戻し還付を受けた場合は当たり前ですが、繰越欠損金の残高が減るため、来期以降に利益が出た場合に控除できる金額が減少します。今すぐに還付を受けて資金繰りを改善したい場合にはとても有効な手段ですが、来期以降も所得が発生する場合には、繰越控除の方がメリットが大きい場合もあるので、利用する場合には慎重に判断しましょう。
2. 地方税(事業税・住民税)上の取扱い
上記でも書きましたが、「欠損金の繰戻し還付」は法人住民税・事業税には同じ繰戻し制度がないので、事業税と住民税の計算上は、その繰戻し還付がなかったものとして、欠損金を翌期以降に繰り越すこととなります。したがって、法人税上の繰越欠損金と、事業税・住民税上の繰越欠損金の金額が一致しなくなるので翌期以降の計算が少し複雑になります。
3. 税務調査の可能性
「欠損金の繰戻し還付」について記載がある法人税の条文(法80条)では、
「税務署長は、前項の還付請求書の提出があつた場合には、その請求の基礎となつた欠損金額その他必要な事項について調査し、その調査したところにより、その請求をした内国法人に対し、その請求に係る金額を限度として法人税を還付し、又は請求の理由がない旨を書面により通知する。」とあります。
必ず税務調査が行われるとは限りませんが、念のため、そういう可能性もあると認識しておきましょう。
まとめ
欠損金の繰戻し還付は、過去に納めた税金を取り戻せる可能性がある制度です。
特に中小企業にとっては、資金繰りを少しでも改善できるという点で、知っているかどうかが大きな差になります。
ただ、将来の利益見込みや繰越欠損金とのバランスを考えずに使ってしまうと、長期的には不利になるケースもあるので、「還付を受けるべきか」「繰り越すべきか」は、会社の状況に応じた判断が欠かせません。
小池税理士事務所では、単に制度を当てはめるだけでなく、資金繰り・将来の利益予測・税負担のバランスを踏まえてアドバイスをしております。もし自分の会社で還付を受けるかどうか判断が難しい場合には、一度ご相談ください。

